地震大国日本!
家の耐震性と建築基準法はどのように変化したのか
2025.02.10創業期

地震大国日本で安心して暮らすには
震度5以上の地震が多発する日本
日本は、「地震大国」と言われる通り地震が頻発する国です。これは、複数のプレートの境界に位置しているためで、日本及びそのプレート境にある国々では地震が頻発しています。気象庁の震度データベース検索によると、2014年~2024年の10年間で震度5弱(家具が移動したり棚に置いてある食器や本が倒れたりする程度)以上の地震は148回も発生。また、将来においても、南海トラフ地震のように大規模な地震が発生することが予測されています。
そんな日本で暮らす私たちにとって、毎日多くの時間を過ごす家は生命を守るという点でも重要な役割を担っています。「大きな地震が発生しても、家は倒壊せず安心して暮らすことができるだろうか?」そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
日本では、建築物を建築する際に守るたくさんの建築関連法があります。中でも、建築物の構造や設備に関する最低基準を定めている建築基準法は、建築関連法の中でも安全性の確保において重要な役割を果たしており、1950年の制定以降震災や社会情勢に合わせて改正を重ね、地震に対する強さを規定する耐震基準も大きく変わってきました。
今回は、改正を重ねる建築基準法の変遷とともに、家の耐震性の移り変わりをご紹介します。
多様な法律が支える日本の住宅
建築関連法の体系

出典:国土交通省資料「建築関係法の概要」
住宅の耐震性を考える前に、日本の建築に関わる法律(建築関連法)について概要をお話しします。日本で家を建てる場合には、建築基準法や都市計画法など、数多くの法律に則って建築する必要があります。
建築関連法を大きく分類すると、建築物(もの)に関する法律と、建築士(ひと)に関する法律、また都市計画法や建設業法といった、それ以外の部分に関する法律の3つに分類され、また、設計段階、工事段階、使用・維持管理段階と段階によっても関係する法律が変わってきます。
建築基準法の役割とその変遷
建築物の最低基準と位置づけられている建築基準法は、日本で最初に制定された建築関連法でもあります。
制定されたのは1950年。戦時中に大規模な空襲によって焼野原となった日本は、復興のために家やビルなど多くの建築物を建てることになり、統一した規定が必要となったためです。
建築基準法は制定されてから70年以上経つ現在も、変わらず私たちの安全を守る基準として役割を果たしていますが、それは度重なる震災や社会情勢に合わせて、その都度改正を重ねて来たからです。
改正は数多く行われてきましたが、改正内容を大きく分けると
①耐震基準の強化:大地震により耐震基準が強化され、建物の安全性が向上。
②防火・避難規定の強化:火災時の安全確保のため、建材の制限や避難経路の確保の厳格化。
③用途規制・容積率の見直し:都市の発展や住宅需要の変化に伴い、土地利用のルールが改正。
の3つとなります。
主な建築基準法の改正と、また1950年以降に制定された主な建築関連法に関してまとめた下記の表を見てみると、建築基準法の改正には、地震だけでなくシックハウス症候群、耐震偽造事件などの社会問題などの影響を受けて見直し、改正を行っていること、また、建築基準法以外の関連法案も制定されており、様々な面から安全が守られるようになっていることがわかります。
【建築基準法の主な改正と新たに制定された建築関連法】 ※年表が読みづらい場合はこちらから
- 施行年
- 災害・事故・社会問題
- 建築基準法等の主な改正内容
- 制定された主な建築関連法
- 災害・事故・社会問題
- 1923年
(T.12) - 関東大震災
- 1924年
(T.13) -
- 市街地建築法構造強度規定の改正
- 1948年
(S.23) -
- 消防法
- 1950年
(S.25) -
- 建築基準法の制定
- 建築士法
- 建築基準法の制定
- 1964年
(S.39) - 新潟地震
- 1968年
(S.43) - 十勝沖地震
- 都市計画法
- 1971年
(S.46) -
- 【旧耐震基準の導入】鉄筋コンクリート造のせん断補強筋規定の強化
- 1978年
(S.53) - 宮城県沖地震
- 1979年
(S.54) -
- 省エネ法
- 1981年
(S.56) -
- 【新耐震基準の導入】・新耐震設計基準
・木造の壁量規定の強化 - 【新耐震基準の導入】・新耐震設計基準
- 1995年
(H.7) - 阪神・淡路大震災
- 耐震改修促進法
- 1999年
(H.11) -
- 住宅品確法
- 2000年
(H.12) -
- 【2000年基準の導入】四分割法によるバランス規定
- 【耐震等級の運用開始】建設リサイクル法
- 【2000年基準の導入】四分割法によるバランス規定
- 2003年
(H.15) -
- 木造住宅のシックハウス基準
- 2004年
(H.16) -
- 景観法
- 2005年
(H.17) - 耐震強度偽装事件
- 既存不適格建築物に関する規制の合理化
- 2006年
(H.18) -
- バリアフリー法
- 2007年
(H.19) - 新潟県中越沖地震
- 建築確認・検査の厳格化
- 住宅瑕疵担保履行法
- 建築確認・検査の厳格化
- 2008年
(H.20) -
- 長期優良住宅促進法
- 2011年
(H.23) - 東日本大震災
- 2013年
(H.25) -
- 省エネ法の改正
- 2014年
(H.26) -
- 特定天井・エレベーター等に対する脱落防止措置の追加
エレベーターの昇降路の容積率緩和等 - 特定天井・エレベーター等に対する脱落防止措置の追加
- 2014年
(H.26) -
- 建築物省エネ法
住宅品確法の改正
- 2016年
(H.28) - 熊本地震
- 2025年
(R.7) -
- 省エネ基準適合義務化と4号特例の縮小
進化した家の耐震性
2つの地震に対する基準
多くの建築関連法がありますが、耐震性について言及されていて、よく耳にするものには耐震基準と耐震等級があります。同じ「耐震」という言葉が使用されているので混同しやすいですが、別の法律・制度です。
耐震基準とは
「耐震基準」とは建築基準法で定められており、遵守すべき基準です。建築基準法制定から大きく3度の改正を重ねており、それぞれ旧耐震・新耐震・2000年基準と言われ、既存住宅を購入する際の1つの目安となっています。
■旧耐震とは、
1981年5月までに適用された耐震基準を指し、震度5程度の地震にも倒壊・損壊しないことを基準としています。
■新耐震基準とは、
1981年6月〜2000年5月までに適用された耐震基準で、震度6強〜震度7程度の地震にも倒壊しないことを基準としています。
■2000年基準とは
2000年6月以降に適用された耐震基準で、阪神淡路大震災を受けて木造住宅の耐震性を大幅に強化しています。
現行の耐震基準は2000年基準となり、旧耐震と比べると、壁量・基礎・接合部・東西南北の耐力壁の配置バランスという点で強化されてきたことがわかります。

出典:フジケンリフォームHP
耐震等級とは
「耐震等級」とは「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく「住宅性能表示制度」の評価項目の1つであり、任意制度となっています。
耐震等級は等級1、等級2、等級3の3つの基準があり、耐震等級1は極めて稀(数百年に1回)に発生する地震に対して倒壊・崩壊しない程度とされており、耐震等級2はその1.25倍、耐震等級3は1.5倍と等級の数字が大きくなるほど基準が高くなってきます。現行の建築基準法の耐震基準は、等級1と同レベルとされています。

出典:国土交通省HP『住宅性能表示制度』-新築住宅 住宅性能表示制度の概要(令和5年12月改訂版)
熊本地震の倒壊率は耐震基準が2.3%、耐震等級3は倒壊率0%!?
2016年に発生し、最大震度7を観測した熊本地震では、政府は建築物被害の原因分析を行う委員会を設立し調査。その結果から2000年(平成12年)以降の建築基準法レベルの木造建築物については、倒壊した建物は2.3%、大破したものは4%、耐震等級3レベルの建物では大破・倒壊した建物が0%であったことがわかりました。
この調査から、今後は旧耐震基準の木造建築物については、耐震化の促進の必要性があること、また、木造住宅に関して消費者に向けてより高い耐震性能を確保するための選択肢を示す際には、住宅性能表示制度の活用が有効だと結論付けています。

出典:国土交通省資料「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント
より地震に強い住まいを提供するために
今後の課題と展望
2025年1月15日、政府の地震調査委員会は、南海トラフの巨大地震が今後30年以内に起きる確率を、80%程度に引き上げました。2013年は「60%から70%」、2014年には「70%程度」、2018年に「70%から80%」と毎年発生確率が引き上げられていることから考えると、今後さらに発生頻度が高まることが予想されます。
住宅産業に携わる私たちにとって、既存住宅の耐震性能の底上げはもちろん、新しく建てる住まいに関してもより高い耐震性能の家を進めるべきではないでしょうか。