長寿社会の住まいの新常識
~住宅すごろくの上がりが変わった~
2025.01.20卸業期
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「庭付き一戸建て」は“上がり”ではない!?
高度経済成長期が終焉を迎える1973年のはじめ、朝日新聞に「現代住宅双六」が掲載されました。
建築学者上田篤氏が考案し、高度経済成長期における都市居住者の住宅の住み替えの様子を表現したすごろくで、“ふりだし” はお母さんの体内。ベビーベッドや子供部屋、独立して寮や安アパート住まいとコマを進めるごとに成長していき、最後は庭付き一戸建てを購入して “上がり” となっています。
しかし、2007年に日本経済新聞に掲載された住宅双六では、上がりは庭付き一戸建てではなく、介護老人ホームであったり、海外定住であったりと、様々な選択肢が描かれています。なぜ変わったのでしょうか。
理由の1つに長寿社会を迎えた日本の平均寿命の伸びと家族構成の変化があると桝徳編集部は考えています。これからの住まいの、“ 上がり” はどのようなものになっていくでしょうか。平均寿命と家族構成の変化という視点から紐解いていきます。
持ち家神話ができた戦後の日本
そもそも持ち家が一般化したのは戦後
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今では住まいの選択肢の1つとして、「持ち家」が定着していますが、一般的になったのは比較的新しく、戦後のことでした。
江戸時代などは、裕福な武家や商家・地主などを除き、長屋住まいや地主・自作農が所有する小屋、納屋に借り住まいするのが一般的。明治以降も借家住まいという点ではあまり変化のない状況でした。1941年の厚生省「大都市住宅調査」でも、全体の75.9%が借家だったことがわかっています。
そんな日本で「持ち家」が定着したのは、戦後日本の住宅政策とハウスメーカーの登場が大きく関係しています。
1945年、終戦を迎えた日本は、深刻な住宅不足に直面しました。不足数は420万戸とも言われ、日本は住宅の量的確保のため住宅政策を推し進めていきます。
主な政策としては3つ、
①国家資金による住宅融資制度となる 住宅金融公庫の設立、
②低所得者向けのセーフティネットとしての公営住宅法の制定、
③行政区域にとらわれない住宅の大量供給を担う日本住宅公団の設立 です。
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戦後の住宅政策三本柱ともいえるこれらの政策が確立したことにより、住宅ローンが普及し、51C型に代表される標準化された間取りの団地が数多く建設されました。今では一般的なLDKという概念が浸透したのも、日本住宅公団が建てた標準化された団地からと言われており、寝食分離という新しいライフスタイルの住まいとして「憧れの団地ブーム」が起こりました。
また、ハウスメーカー(プレハブメーカー)と言われる住宅供給会社が登場したのもちょうどこのころ。日本で最初のハウスメーカーとされているダイワハウスが1955年に創業し、次いで積水ハウスやミサワホームなどが創業していきます。
ハウスメーカーが住宅をプレハブ化、工業化することで一定品質の規格化住宅を提供。高度経済成長による所得増加も相まって、持ち家の取得がより現実的になってきました。
持ち家神話が浸透した理由には様々な側面がありますが、国として「一世帯一住宅」を実現させるための住宅政策を推し進めたことにより、住宅ローンや標準化された住宅が普及したこと、ハウスメーカーの登場により一定品質の工業化住宅が供給されるようになったこと、また高度経済成長により所得が増加したことなども、日本の持ち家神話を作り上げた要因になるのではないでしょうか。
サザエさんで納得!「持ち家=上がり」も納得できる戦後の平均寿命
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持ち家神話ができ始め、現代住宅双六が掲載された戦後から高度経済成長期の時代、日本の平均寿命は現在よりずいぶん短く、1970年の平均寿命は71.9歳(男性69.31歳 女性74.66歳)でした。
数字だけだとわかりづらいので誰もが知っているサザエさんを例に見てみましょう。サザエさんは1946年に朝日新聞で漫画が連載開始し、1969年にアニメが放映開始されており、ちょうど戦後~高度経済成長期ぐらいの時代設定と考えられます。
「波平はカツオのおじいちゃん?」というのは、サザエさんでのありがちな間違いですが、正しくはカツオのお父さんです。見た目はおじいちゃんのようですが実は54歳。当時、定年の年齢は55歳のところが多く、翌年には退職し御隠居さんになる年齢です。
1970年の男性の平均寿命を考えても余命15年程。磯野家は持ち家ですが、余命15年ほどと考えれば住み替えも検討せず住み続けられそうで、「持ち家=上がり」というイメージも納得できますよね。

ちなみに磯野家の間取りは、家の中心に四部屋ある田の字型の間取り。ふすまを開けたり締めたりすることで部屋の広さや用途を変えることができ、三世代が住む家と考えたら手狭に感じますが、大家族でも暮らせる知恵の詰まった間取りです。
“上がり”から一転、住宅2次取得者は50代以上が中心に
「庭付き一戸建て」で上がったかと思いきや・・・50~60歳前後で住み替える人も
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戦後に定着した持ち家神話。持ち家率は上昇を続け、バブル期前の1983年の62.4%をピークに以後60%前後で推移し、持ち家が浸透していることがわかります。
前述のサザエさんの時代の平均寿命を考えれば、戦後から高度経済成長期にかけて、マイホームを持ち、人生上がりと思っていた方も多かったかもしれません。
しかし、令和4年の住宅市場動向調査によると、分譲住宅以外の住宅[注文住宅、分譲集合住宅、既存(中古)戸建住宅、既存(中古)集合住宅]の2次取得者の年齢は60歳以上が一番多く、また50代60代が半数以上を占めていることから、50代~60代前後に上がりではなく住み替えを考えている人が多いことがわかります。
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平均寿命が延びて、クレヨンしんちゃん家も建て替えが必要に!?
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このように、上がりが変わった要因の一つに平均寿命の延びがあるのではないでしょうか。
現代住宅双六が登場したサザエさんの時代と比べると、平均寿命は10歳以上伸びています。2022年の平均寿命は男性 81.05 歳、女性 87.09 歳。
定年退職の年齢も60歳から65歳、70歳になるとも言われており、人生100年時代といわれる現在は、波平さんの時代より長く家に住む必要がでてきます。
わかりやすくイメージするために、同じくアニメで考えてみましょう。
埼玉県春日部市を舞台にしたクレヨンしんちゃん。1992年放映開始で、当時の平均寿命は男性75.92歳、女性82歳となっています。
家はバブル期に建てられた築10年ほどの中古物件を購入したとされており、クレヨンしんちゃんのお父さんは35歳です。
放映当時の平均年齢で考えると余命40年ほどとなっていますので、ずっと住み続けると考えると大規模リフォームや住み替えの必要性も想像でき、庭付き一戸建ての購入で”上がり”とは思えませんよね。
世帯構成が変化!単身の高齢者世帯も増加に
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平均寿命の変化の例としてサザエさんとクレヨンしんちゃんを引き合いに出しましたが、この2つのアニメを 世帯構成 という視点からも比較してみましょう。
サザエさんは3世代が住む7人家族ですが、クレヨンしんちゃんは2世代4人が住む核家族です。
元々日本では、3世代世帯が一般的でしたが、工業化や都市部への移動により核家族・単身者が増えてきました。
高度経済成長期には、さらにその割合が拡大しており、1955年の核家族世帯割合が59.6%だったのに対し、1975年には64.0%へと増大。単身世帯割合も、1970年~1975年にかけて増加しています。
令和4年版 厚生労働白書によると、2015年の世帯構成の割合は単身世帯が34.5%と一番高く、次に夫婦と子供世帯が26.9%、夫婦のみ世帯が20.2%、高齢者単身世帯が11.7%となっています。
しかし、同図の2040年までの推計を見てみると、単身者世帯は39.3%まで、高齢者単身世帯は17.7%まで上昇、夫婦と子供の核家族世帯は26.9%から23.3%へ減少と世帯構成が大きく変化すると予想されています。
このような世帯構成の変化を考えると、庭付き一戸建てがゴールではなくなってきたということも納得できることかもしれませんね。
長寿社会の新しい住まい方
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前述したように令和4年の住宅市場動向調査によると住宅の2次取得者には50歳~60歳代が多く、家を買ったら “上がり” ではないと実感している方が、これからの住まいのために行動を起こしています。
世帯構成が変化していることに加え、平均寿命が伸びたために、リフォームや住み替え、また改訂版の住宅双六にあるように、老人ホームや海外移住など、新しい住まいに住むだけでなく、どこに住まうのかということも選択肢に入ってきており、その選択肢は1人1人によって違い、多様化していきます。
住宅産業に携わる私たちとしては、お一人おひとりはもちろん、地域にも焦点を当てながら皆様それぞれに住まいと住まい方を提案していくことが大切ではないでしょうか。